2020-09

日々

 おおい、おおい、と海が呼ぶが、わたしたち誰も耳を貸さない。近ごろ地震続きのせいで、森羅万象、こと自然物は、まるで信用できなくなった。  わたしたち額をつきあわせて、炎天下、路地を編み直す仕事をしている。進捗は思わしくない。編み棒は絡...

独立

 瑠璃色の空だ。ベランダから見上げて、物干し竿を投げ落とす。豊富に茂った植え込みの、うじゃうじゃ細かな葉に呑まれ、音もしないが羽虫の群れが黒煙のように湧く。  とって返して、台所の木柱のライオンのシールを剥がし取る。十歳のわたしの背丈...

特効薬

 自転車屋の、ひそひそ話を盗み聞く。裏口の、戸にぴったりと耳をつけて、気取られることはありゃしない。やつら、近ごろ川辺の道を、飲んだくれては走り抜け、雷みたいに怒鳴り合う。お互いの言い分一歩も譲らず、けれども車輪は回り、回る。  前輪...

野ざらしの生活

 あなた。手をつなごう。カネを代わりに出してくれ。駅ビルの通路は腸の中みたい。「大きいサイズ」が売っている。私に何の関係が?   あなた。手をつなぎ、一、二で叫ぼう。叫ぶ必要がある。ピンク色のオウムのかたちの付箋、万年筆、青い小花の刺...

ぜんぶ、まる

ホウセンカオシロイバナドゾウノソトニマルノボリノボルマルオオツブノマルコツブノマルマメツブノマルマドニウツルマル ホウセンカオシロイバナシロイイロニオビエルサビネコシロイイロノマルシロイイロノマルニカコマレテブツチョウヅラノサビネコ ...

届けもの

 ぴちぴち跳ねる鮭を捧げ持って、紺の制服の郵便配達が市役所の方へと渡っていく。普段波も立たない川面から水が、にゅうんと首をもたげ欄干に指をかけ珍客を疑う。  この川には鮭など上って来ない。値札が付いているだろ。  一方役所の正面の、三つ...

誰かの頭蓋骨

 赤い綱に曳かれた尻尾の巻いた犬に笑いかけてもらえないかと、尻尾のあとをつけまわす。犬は喜怒哀楽その他を、人が解釈することができる程度、豊かな表情を向けることができると聞く。せめて犬くらいにはわたしの正体を見抜かないでほしいと思う。気にせず...
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