2022-01

おとずれ

電話を切るなり空は翳って ベランダのタオルに霜が降りる 畳の下に霜柱が立ち 居間に配達人がやってくる 不吉な知らせには限らない 遠く奥まった地からのおとずれ

公園の桜

葉の落ちた 桜の並びを 堤防の下 葦の原の 古く厳めしい 眺めの下に 置き換えて 川の中ほど 茶色く濁った 流れの中に 根こそぎ流す 公園に 桜はいらない

浴槽

髪の毛を浴槽に散らかして 母に叱られることを想像する もう随分とまだらになった 髪の毛は貼りついたままに干からび 浴槽には蚯蚓腫れの跡が残る

冬眠の前に

腹が膨れると遠い星のかたちが見える 胃と腸に塩辛い水が流れる 道がゆっくりと開かれて黒い天空に通じる 私は頭蓋の天辺に座って逆さにそれを眺める

老年期

坂の下では牡鹿たちが 花と蔦とで枝角を飾り しゃなりしゃなりと横断する これは夢の中で観た景色 ここで足止めされたまま 家族も私も年老いる

冬の終わり

私が虎として生きたのは 去年の冬の終わりまで 二つの足で立ち上がり 素裸で夏の間を過ごし 秋には衣服をまとって 柘榴の実をもぎに出る 冬は人より虎を好むが 今更意には介さない

夜の鼠

窓際に塩を盛って 夜の鼠たちに備える かれらは肋の中に もう既に滲み込んでいて 階段の下の空洞だとかに 宮殿を築いている 残らず叩き潰さなくては けれど、同時に 夜には深く眠らなくては

のっぺらぼう

窓際に目を据えて 天気を読むのが仕事 ひねもす働けば 目蓋は塞がって 血液を透かした 赤い光を頼りに ものを喰らい 辛うじて眠りにつく 鼻頭から頬に川が走り 皮膚の上が耕作される 朝にはまた 目を開いて 顔さえ洗...

家族の事情

灯篭を寝台の上に 吊るして 裸足の指が 伸びていき 祖父の丸い墓石に触れる 冷たく仕上げたものだ まるで怒っているみたい 私には手助けできず また 助けが要るのかも分からない

一か八か

箱を開けたら 後悔の煙が 街に覆い被さり 髪は抜け落ち 腫れた臓物 あとのまつり あるいは 小さな息ひとつ 吐き終わり 寂しい空箱に 奥歯をひとつ 思い出に仕舞う
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