2022-04

言い争い

雨が止んだと思ったら 左へ折れる角の彼方から 言い争いが流れてきて すなわち窓を閉じ それでもわずか流れ込んできたので さっきから咳が止まらない

土地の秘密

舗装なり砂利なり土砂なりを 薄く剥げばそこには 一面に貼られた太鼓の皮が 常にどうどうと鳴っているのだ

叫び

雨の下、線の上を歩くと 寂しさに叫びたくなり 結局本当に叫んでしまう 叫び声が山に撥ね返って 隣り町の人がそれを雷と思う

通学路

学校がはけてトキワサンザシ 飢えることを空想するタチバナモドキ 例え我が家を追われたとても 私の赤い実、だいだいの実 胃袋で溶けて合わさり舌は痺れる トキワサンザシ、タチバナモドキ

遅れてもやらないよりはまし

マチカネワニの疎らな歯の 間に蹲る古い時代の青 私が二十年も前に 本当は見つけていなければならなかった こんがらがった青

個人的な英雄

背景からレモンの皮みたいに黄色い光が 肩から腕への骨のかたちを英雄的に見せている 彼女は実際英雄だ 今のところまだ洗面所から出たところだが 太陽の下に出ればたちまち そこの食堂からあちらの歯医者と その隣の公園くらいまでの範囲は...

雨の季節

骨が砕けた家の 隙間を探して這いつくばる 猫の呼び合う声が さっきまで盛んに聞こえたのだが 猫は土の窪みから水を舐め 髭の先まで水を含ませ そうしてこの街から雨を ことごとく奪っていってしまう

雨宿り

砂糖飴でも舐めて いっとう奥の席で待とうか 小糠雨が止んで 草木が枯れ萎み 空が灰色に凝る 学がないものだから そのあとどうなるのかは分からない
小説

懐かしき海 29(第二章 14)

14. 海は夕暮れに覆われ、その全体が湿っている。  潮が満ちはじめていて、朱の塊がのしかかってくる。  嘴状に張り出した磯が右手に影となって貼りついている。先端のぎざぎざの岩も、もうじき海中に没するだろう。 大気そのものが朱に染ま...

その人

口を滑らすには生暖かい昼だ 今年の干支と同じくらいに 曖昧至極な覚え方で 確かにその人かと訊かれれば 天神様の言うとおりに任せた方が まだしもそれらしく思えるのに 参道の砂利から滲み出したみたいな顔だ 手足は三日も前に死ん...
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