kohagi

思い出にはならない

餃子を喰って 四人で 坂道を上った 墓場の脇の道だ それで眠った 眠っている間に 海沿いの街が焼け焦げて 山が二つに裂けたけれども 私は傷ひとつ負わず 死なず そのあとも死なず まだ生きている

温かいレモネード

その 布張りの 味のしない 丈の低い腰掛けに 座るためだけに注文される 砕けた植物組織が雪のように 積もっているのを掻き混ぜる 濁った暗いひとつの液体

繁殖

あなたは彼女のことを もう二十年も悼んでいるが 骨壺の中身の骨は とっくの昔にばらまかれて もうそこいらで 充分に繁殖している

出血

こんなところに蛇口があると 遠からず 血が全部抜けてしまう 蟻が横断歩道で溺れて 蒼ざめて萎れる都市を踏み潰す

晦日

踊りに行くには早すぎる 雪ぐらい降ってからじゃないとね 音楽が止まったあと 凍えもせず 温まった家に 戻って来られるようではちょっと 黒いライトの下で 踊りながら どこへも帰れないと考え込んで いつの間にか息を吸うことも ...

夢の中なら

桜の香りをつけた酒だと 差し出されたものを買い 世にもやわらかい 羽根布団なるものを買い 蒼白い炎を吹くライターを買い 酔いに任せて夢の中でいまだ続く 六時間目の学校を焼く

先達たち

多くの血と息が わたしの戸口の前を 通り過ぎて行った 曲がり角の手前で 多くの血と息は ひとつの点に吸われて 見えなくなってしまったが わたしの耳には嵐が聞こえ ひとつしかない部屋には 鉄の匂いが充ちていく
あめをまてども

あめをまてども 4

4.帰還  祖父の家の敷地には、囲いと言えるような囲いはない。門と言えるような門もない。ただ、なんとなく地面が茶色から好き放題伸びた草の緑に変わって、その草の葉の間に半ば埋もれている、車止めらしき出っ張り二つと、町内会が設置している防犯灯...
あめをまてども

あめをまてども 3

3.高山印  酔っ払いが派手派手しい音を立ててグラスを落とした。 「おお、久しぶりにやりおったぞ」  ほれ、行け、と店長が背中を小突く。たすくは素早く雑巾を腰に挟み、モップと塵とりを手に取って、カウンターの後ろの隙間を縫って客のところ...
あめをまてども

あめをまてども 2

2. 雨を待てども 待てども待てども雨は降らず、降る兆しも全く見えない。 そんな報道が毎日のようにテレビや新聞を賑わせている。  確かに、もう2か月近く雨音を聞いていない。異常な事態だ。そろそろダムの水位とかやばいことになってるん...
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