kohagi

あめをまてども

あめをまてども 1

1. ネコ人間  たすくがネコ人間と出会ったのは、つい最近のことだったが、もしもその邂逅について語ろうとするのならば、7月21日(日曜日)の午後6時半に、葱氏(ねぎし)町の郵便ポストがある角で……、などと語り出すのは不釣り合いのように...

空港にて

空港に避難者が到着すると 麝香のかおりが均等に広がり 本当にはこちらの側にしか 存在しない空腹というものを 均等に かれらは思い出すのだった

ヴェルヴェット

白くつながった虹の端と端をつかまえている 夏の中でなめらかなものはすべて押しやられてしまう そしてわたしは 向こう端にいるのが誰だかを知らない

駄菓子屋

どうぞ、と言われたが 店先に並んだ中に 私の知っている駄菓子は ひとつとして見当たらず 味すら見当もつかず 当てずっぽうに 私には子供時代など はなからなかった

音色

音色にはいつも砂が混じっていた だから率直に告げることにした もちろん随分と長く悩んだあとだったが 聞き終えるや否や彼は 剪定ばさみを出してきて弦を片端からちょん切り おれは砂漠なのか、と言った 私はそこまでのことには 考...

正体

私の正体を 明かすに相応しい相手は 教師 歯科医師 警官 こども 手品師 駅員 不動産屋 有機食品屋の店番 どいつもこいつも 近づくと死んだふりをしやがって

真夜中まで

踊ることにした 夜通し とはいかずとも 真夜中までは 靴下の中で皮膚が鱗を生じ もう人に見せることもできない足だ 誰より機敏に働き そして 街じゅうで この部屋にだけ灯りが点いている

つごもり

眠りに気を取られて 山霧が 小鳩に変わるのを見逃してしまった 谺は気怠く四肢を広げ 再び夜がやってくるまでの間の 私の気分の色調を操る それは 見事な手さばきである

かれら

かれらの秘密の会合が 開かれる場所も 時間も おおよそ知っているが 知らないふりをしてやっているのだ 通りがかりの振りで 横目に見る 今夜は赤毛の丈の低い馬が 酒の肴として呼ばれている 誰も聞いたことのない新しい考えや...

新しい土

壁と排水溝と 白線と熱と水たまりと あらゆる隙間で 新しい土が作られている そして私たちは行きつくところを知らない 誰も それが重大事だと 考えたこともない
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